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Centerboard 石原正博

意志なきリーダーのもとで組織は一つにならず

これまで日本は、長引く不況から抜け出すために「経済再生」「デフレ脱却」という目標を掲げ、様々な政策を打ち出し改革を進めてきました。ところが肝心の経済再生の主体である民間企業は、その期待に応えるべく成果をあげられていないのが現状です。

これまで日本企業は何をしてきたのか?

これまでを振り返ると、日本企業の多くは決して努力を怠ってきたわけではありません。

実際には様々な取り組みを通じて改革を図ろうとしてきています。

経営計画や戦略の策定に時間をかけ、構造改革と称して事業の選択と集中を進め、時にリストラを断行し、組織体制の整備や様々な制度や仕組みを取り入れながら改革を進めてきたのです。

ところが企業収益は外部環境によって波があるものの、様々な取り組みによって効率化を進めているにも関わらず実態としては以前よりもあまり変わっていない、もしくは悪化しているというのが現状なのです。このことは欧米企業との比較において日本企業のROEや一人当たりの生産性が常に低いことからも明らかになっています。

なぜ日本企業の努力は実を結んでこなかったのか?

実はここに「部分最適」という厄介な問題が潜んでいます。

経営者が抱える悩みに「経営方針が実行されない」「経営と現場、部門間に壁がある」「人材が育たない」「仕組みやルールの形骸化」といったことがあります。これらは会社の方針、人、組織、仕組み、システムなどあらゆる経営資源が限られた範囲や部分では最適であるが、会社全体として見れば何ら貢献せず不最適である、もしくは悪い影響を及ぼしている状態にあります。これが部分最適の問題であり、多くの日本企業が、様々な取り組みをしてきたにも関わらず、生産性やスピード、効率化などが図られなかった要因なのです。

本来ならば、会社の方針、人、組織、仕組み、システムといった経営を構成するすべての要素が経営という枠組みの中で利益を生み出すためにしっかりとつながりを持ちながら循環していなければなりません。それが全体最適化されている状態と言えるのです。

ほとんどの企業はそもそも改革の進め方を間違えていた!?

とても厄介な部分最適の問題ですが、これまでコンサルティングを続けてきた中で一つ重要なヒントが分かってきました。それが、社員の誰もが「改革によって会社は変わらなければならない」とは考えているものの「そもそも会社がどこに向かおうとしているのか」「どのような姿に変わらなければならないか」といった会社の目指す目的を理解していなかったということなのです。このことによって社員たちは、変わることを目的に、解決策をこなすだけの「手段の目的化」が蔓延してしまい、部分最適という状態を生み出してしまっていたのです。そして、改革の進め方の間違いに気付かないまま改革に改革を重ね続けていった結果、企業内部では部分最適がどんどん増殖し、次第に生産性は上がるどころか逆に下がってしまうという事態を招いてしまっているのです。

では日本企業にビジョンや目指す目的はないのか!?

決してそんなことはありません。逆に言えば、ありすぎるということが問題になってくるのです。

ある企業では、経営幹部が社員に対してそれぞれ次のようなことを言っています。

A役員「今はとにかく売上第一!」

B役員「なんといってもお客様が第一」

C役員「チャレンジだ!意識改革だ!」

D役員「まずはコストを下げて足元をしっかりさせること!」

また多くの企業を見ていると、会社案内やホームページでは経営理念やミッション、ビジョン、バリュー、行動指針といったような企業として目指すべきもの、守るべきものを目にすることがあります。更には中期経営計画や年度毎の事業計画、各部門内で作られる方針書などにも方向性やビジョンなど目的に関するものが多数挙げられているのです。

一つ一つのメッセージを見ていくと、言っていることはとても重要で決して間違ったことは言っていないのでしょう。しかし、これらの様々なメッセージを受け取る側の社員にとってみれば、一体会社は何を目指そうとしているのか、軸足をどこに置けばよいのかが見えなくなってしまうのです。そして、このことが社員一人ひとりの日常業務を進めていく上での判断基準をばらばらにさせ、取り組むべき課題への各自の勝手な解釈による優先付けが行われ、社内の一体感は失われてしまっていたのです。

トップは自らの意志をビジョンとして伝えなければならない

社内に蔓延る部分最適の問題を解決するために、組織は一つの方向に向かってベクトルを合わせていかなければならないわけですが、それでは一体、様々なビジョンや目的らしきものの中で、どこに向けて一つになっていくべきなのでしょうか。ここで一番重要になってくるポイントが組織のトップリーダーが「自分はどうしたいのか」という自らの意志を明確にし、そして発信していくということなのです。それこそが組織を一つに束ねリードし、全体を最適化していくための重要なポイントとなるのです。

会社のビジョンを外部のコンサルや、社内のプロジェクトチームに作らせることがありますが、そこで出来上がったものに対して仮にトップがコミットしたとしても、どこまで本気度と責任を持てるでしょうか。自らが心底抱く野心や願望を実現したいと思うからこそ本気のリーダーシップをとることができ、また非常に重い責任を負うことが出来るのです。そして、それに見合う権限と報酬を得ることが出来るのです。

自分の意志を伝えるというと「果たして社員や部下は付いてくるだろうか」という不安が出てくるかもしれません。私は、これまで多くの企業を支援する中で、トップが自らの意志を社員に伝える場面に幾度となく立ち会ってきました。その中では、大抵の場合、それを聞いた社員は「そういう言葉を聞きたかった、あるいは待っていた」というような反応を示すとともに、顔の表情が少しずつ穏やかに変わっていくのが分かるのです。トップ自身が顔を突き合わせながら、生身の言葉で「自分はこうしたい」をリアルな場で伝えることでメンバーは動機付けられ、行動を起こす原動力を持ち始めるのです。

近年の日本の代表的な経営者と言えばソフトバンクの孫氏や日本電産の永守氏、ユニクロの柳井氏などが挙げられますが、彼らは明確なビジョンや方向性を持ち、それを社員にしっかりと伝えています。彼らの会社の社員に話を聞くと、会社の方向性とそれを発信している人物の顔が常にワンセットのイメージとなって伝わっているのです。会社として一体感のない企業では、ビジョンや方向性は掲げられているものの、すぐに社長の顔が浮かんでくるようなことは稀で、そもそも誰がそのビジョンを発信しているのかもわからないのが現状なのです。

「トップ自らが意志を明確にしてビジョンとして発信し、組織をリードする」聞けばとても当たり前のことのように見えます。しかし、この極めて当たり前のことが出来ていないがために、組織はまとまりをなくし、手段の目的化が蔓延し、改革は進まなくなってしまっていたのです。

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