東芝問題について
日本の名門企業、東芝に不正会計の問題が起きた。
第三者委員会の調査報告書を読むと、会計処理の実態、内部統制やガバナンスの状況など、日本を代表する企業として、極めてひどい経営を行っていたことが伺える。
そして「チャレンジ」と称して経営トップが無理な当期利益のかさ上げを要求し当期利益至上主義となっていたことや、社員のコンプライアンス意識の希薄、上司の意向に逆らうことが出来ない企業体質といった不正会計を引き起こした原因も浮き彫りになった。
調査報告書では、これらの問題への解決策として、経営刷新委員会の設置、ガバナンスの見直し、再発防止策、強力な内部統制部門の新設、監査強化といった提言がなされており、おそらく、東芝は再発防止に向けてある程度提言に沿った形で取り組みを始めるのだろう。
しかし今回、これで部分的には問題が解決するだろうと思う一方で、何かさらに重要な課題が抜けているような気もするのである。
余談だが、10年程前に不祥事を起こしたある自動車メーカーの社員と話す機会があった。 そこで言っていたのは、再発防止策は必要だが「何か表面的で根本の解決策にはなっていない」「社内の根深い体質や意識はそう簡単には変わらない」といったネガティブな反応だったと記憶している。
では一体何が抜けているのだろか?
答えを探る上で、まずいくつかの疑問について掘り下げる必要がある。
①そもそもなぜ経営者は当期利益至上主義となっていたのか?
②社員はコンプライアンスの意識が希薄だったのか?
③なぜガバナンスや内部統制は機能しなかったのか?
以下はあくまで経験からの推測になるが、
①株主等ステークホルダーの外部プレッシャーや経営内部の確執の問題ということもあったのだろう。しかし、根本には長期的に利益を成長増大させていくという戦略が描けておらず、毎期の決算で利益確保に苦戦しながら、次第に短期的な利益を追求せざるをえなかったということが考えられる。
②ほとんどの社員は、違法性の認識があったかどうかは別として、「こんなことして問題があるのではないか?」「目先だけで、やっていることに本当に意味があるのか?」など上司に反抗してまでは言えないが、やっていることに対して何らかの問題意識や違和感を持ちながら関与していたのではないだろうか。
③決して誰もがガバナンスや内部統制の重要性を無視しているわけではない。しかし、トップの意向に基づく目先の利益を確保することが自分自身の身を守る上で、何よりも重要かつ優先事項であり、本来歯止めとなるはずのガバナンスや内部統制の重要性は彼らにとって優先度が低いものと位置づけられ、結果的に機能不全に陥っていたということが考えられる。
この3つの疑問を考え進めていくと、実はある共通の問題背景が浮かび上がる。
それが、「東芝全体が短期的な利益追求に走らざる負えない状況に置かれていた」ということ。即ち「長期的に利益を稼ぎ確保できるという戦略を描き、実行し、結果を出している状況になかった」ということである。
長期的な利益を増大確保するためには、本来、付加価値の高い製品・サービスを提供し、その価値に見合った利益を確保するということであろうが、そのための戦略や実行が伴わず、短期的な利益に頼らざる負えない状況から脱せていなければ、今回のような再発防止策を講じたとしても、また同じ過ちを繰り返す可能性があるのである。
今回の問題は様々な背景があるだろうが、その中の最も重要なこととして、東芝がどうやって長期的に利益を確保していくのかの道筋を持てていなかったということを見逃してはならない。
東芝グループが掲げている経営ビジョン「イノベーションへの新たなる実行」を絵に描いた餅にせず、その方向性を具現化するために、グループ全体でしっかりと共有し、どうやって適正適法に実現させるかの戦略の前向きな議論をし、より良い結果につなげていくこと、それが本来の不正防止策となるとともに、その好循環の過程においてより良き企業風土体質は醸成されていくのである。